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量子コンピュータ


量子コンピュータ

量子チューリング機械と呼ばれる数学モデルに等価な量子コンピュータ

量子コンピュータとは、量子チューリング機械と呼ばれる数学モデルに等価なコンピュータのことである。量子チューリング機械は、オックスフォード大学の理論物理学者David Deutsch教授が1985年に定式化した。その後、古典コンピュータ上のベストアルゴリズムよりも指数関数的に高速動作(量子加速)する量子アリゴリズムが理論的に発見されてきた。その数は、現段階で約60〜70種類程度である。代表的な量子アルゴリズムとしては、素因数分解、量子化学計算、量子機械学習、量子シミュレーションなどがある。そのため、量子コンピュータは非常に幅広い産業分野に破壊的インパクトをもたらすと期待されている。その一方で、量子コンピュータの実用途は量子加速が数学的に保障されている上記の問題に限定される点に注意が必要である。そのため、将来的に量子コンピュータは、古典コンピュータ(スパコン、HPC)及び非ノイマン型コンピュータ(脳型コンピュータ、AI専用コンピュータ、光コンピュータ、イジングマシンなど)と共存すると考えられている。


誤り耐性汎用量子コンピュータ

量子エラー訂正機能を実装した誤り耐性汎用量子コンピュータ

実際の量子コンピュータにおいては、ノイズや外界との相互作用によって生じるエラーを避けることが出来ない。エラーを検出し訂正するための技術は、量子エラー訂正と呼ばれる。量子エラー訂正機能を実装した量子コンピュータのことを誤り耐性汎用量子コンピュータと呼ぶ。代表的な量子エラー訂正符号として、Bacon-Shor符号、CSS符号、安定化部分群符号、表面符号がある。量子ビットのエラー率が、エラー閾値よりも低ければ、誤り耐性汎用量子コンピュータを用いることで、上述した量子アルゴリズムをエラーフリーで実行することが可能となる。ただし、表面符号の場合、エラー閾値は約1%であり、約1万物理量子ビットを用いて1論理量子ビットを構成する必要がある。従って、より高品質な量子ビットの実現とさらなる大規模集積化が今後必要となる。現在のところ、100万量子ビット級の実用的誤り耐性汎用量子コンピュータが実現するためには最低でも20〜30年程度の非常に長い時間が必要になると考えられている。


中規模量子コンピュータ(NISQ)

量子エラー訂正機能を搭載していない中規模量子コンピュータNISQ

MITの理論物理学者John Preskill教授は、近未来に実現する数10〜数1000量子ビット程度の量子エラー訂正機能を搭載していない中規模量子コンピュータのことをNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum device)と名付けた。NISQはノイジーかつ集積度が限定されているため古典コンピュータの助けを借りながら情報処理を行う。実ビジネス上有用な量子・古典ハイブリッドアルゴリズムの提案が近年盛んに行われている。代表的なアルゴリズムとしては、VQE(量子化学計算)、QAOA(組合せ最適化問題)などがある。現在、NISQの実ビジネス・学術上有用な問題(化学、人工知能、創薬、流体、金融、システム工学、固体物理、統計物理、セキュリティ等)に対する量子加速の有無について大きな注目が集められている。ただし、現段階において、NISQアルゴリズムの古典コンピュータ上のベストアルゴリズムに対する量子加速の存在は証明・実証されていない。その一方で、NISQ向けに開発される理論、シミュレーション、設計、製造、集積化、実装、アーキテクチャ、アプリケーション、クラウド技術は、その先にある究極のコンピュータ「誤り耐性汎用量子コンピュータ」実現のための重要な基盤となる。


超伝導量子コンピュータの研究開発動向

高品質化と大規模化が重要な課題の超伝導量子コンピュータ

現在世界規模で超伝導量子コンピュータハードウェア(NISQ)の開発が進められている。代表的な量子コンピュータは、超伝導量子コンピュータである。Google(53量子ビット”Sycamore”)と中国科学技術大学(62量子ビット”祖沖之2号“)は、量子優位性の実証に成功したと発表した。 また、2021年にIBMとRigetti Computingは、それぞれ127量子ビットと80量子ビットの超伝導量子コンピュータを発表した。一方、我が国においては、文科省Q-LEAPにおいて誤り耐性量子コンピュータの実現に向けた「超伝導量子コンピュータの研究開発」が進められている。このプロジェクトにおいては、誤り耐性汎用量子コンピュータを目指して、超伝導トランズモン量子ビット2次元アレイ及び垂直配線技術を利用したNISQの開発が目標となっている。


量子コンピュータの研究開発における課題

現在実現している超伝導量子コンピュータは、100量子ビット程度の初期型NISQである。従って、さらなる高品質化と大規模集積化が重要な課題となる。そのためには、専用ファウンドリを用いて安定に高品質な量子ビット及びその集積回路を製造する技術を確立する必要がある。また、現在主流のトランズモン量子ビットに加えて、より高忠実度動作が期待される新方式超伝導量子ビットの開発も求められる。また、希釈冷凍機と室温制御エレクトロニクス装置を用いた現存方式においては、マイクロ波配線による熱流入が数100量子ビット以上の大規模化を大きく阻害すると考えられている。その問題を解決するためには、冷凍器の外にある室温制御エレクトロニクスを必要機能に絞ってシステムオンチップ化し、冷凍機内に配置する量子-古典インターフェース(クライオCMOS集積回路及び超伝導論理回路)の開発も必須となる。